
東京大学 生産技術研究所 准教授
Global Hydrodynamics Lab Principal Investigator
Global Global Hydrodynamics(全球陸域水動態)は、地球全体を対象に陸水の輸送・貯留とその地球システムとの相互作用を解明する研究分野です。
河川や氾濫原における水の流れは、流域全体の水収支(1000 km以上)と、河道や微地形(100 m以下)の詳細形状の双方に強く支配される、多階層的な現象です。この空間スケールの大きな隔たりをどのように一つの理論枠組みで統合するかが、全球水動態モデリングの核心的課題です。
私は、サブグリッド地形表現に基づく高効率なアルゴリズムを用い、水位・流量・氾濫域を一貫して計算可能な全球河川モデル(例:CaMa-Flood)の開発を進めています。単純な流量計算にとどまらず、「水は高いところから低いところへ流れる」という基本原理を地球全体で整合的に再現することを目指しています。そこでは、計算効率と物理的忠実性を同時に満たすモデル構造の設計が鍵となります。
現在、地球上のすべての河川における流量・水位・浸水域を一貫してシミュレーション可能な数少ないモデルの一つです。オープンソースとして公開され、1000以上の登録ユーザーを誇り、国内外の研究機関・気象機関で利用される国際的モデリング基盤へと発展しています。
正確な陸域水動態シミュレーションには、高性能な数値モデルだけでは不十分であり、水の流れを規定する地形情報の精度が決定的に重要です。とくに全球規模では、水文学的に整合した地形データを整備すること自体が大きな課題となります。衛星観測は地球全体をカバーする一方で、ノイズや系統誤差を含み、そのままでは水の流れを正しく表現できない場合があります。
そこで、複数の衛星データや地理空間情報を統合し、自然界の水の流れと整合性のとれた河川地形データとして再構築することで、陸域水動態モデリングの基盤となる全球地形データの整備を進めています。代表的なプロダクトとして、全球標高データMERIT DEM、全球河川地形データMERIT Hydro、日本域表面流向マップJ-FlwDirを開発してきました。水文学的整合性を備えた地形基盤データを体系的に構築することにより、地球科学コミュニティに貢献しています。
近年の衛星技術の進展により、全球規模で水面高度や浸水域を観測することが可能になりつつあります。しかし観測は時空間的に不完全であり、観測値だけでは水循環の全体像を把握することはできません。
そこで、数値モデルと衛星・現地観測を統合するデータ同化やモデル最適化手法を開発し、理論と観測を融合した全球水循環の推定を行っています。観測から直接は見えない河道水深や氾濫原貯留量といった量も、モデルとデータの整合性を通じて推定可能になります。こうした推論過程は、地球規模の水動態を“測る”ことと“理解する”ことを同時に進める試みでもあります。
気候変動は降水パターンや極端出水の発生頻度を変化させる可能性がありますが、その影響は流域地形、河川特性、土地利用、社会的対応などと複雑に絡み合っています。物理モデルに基づく全球水動態シミュレーションは、こうした多要素の相互作用を統一的に扱うための基盤となります。
気候モデル出力との結合や大規模アンサンブル解析を通じて、将来の洪水リスクや確率論的災害評価を行うとともに、陸域水変動が社会や生態系に与える影響、さらには人間活動が水動態に与えるフィードバックについても探究しています。自然システムと社会システムの境界をまたぐ問題設定の中で、水動態モデルは基礎科学と実社会を接続する役割を担います。また、産学連携を通じて、洪水リスクを中心とした気候変動適応策の検討にも取り組んでいます。
降雨流出過程は洪水発生の基盤となる重要な水文学的プロセスですが、多段階的かつ非線形な構造を持つため、初学者にとって直感的理解が容易ではありません。そこで、物理モデルに基づく降雨流出シミュレーションをゲーム形式で体験可能にした「SplashTune」を開発し、プロセスベースの水文学教育手法の研究を行っています。洪水を単なる災害事象としてではなく、流域条件や地表状態の違いから必然的に生じる力学的帰結として理解できる枠組みを提示することで、水文モデルの面白さとその社会的意義に気づいてもらうことを目指しています。
本研究は「Playable Hydrology」という概念のもと、物理モデルとゲームベース学習を統合し、水文学の専門知と社会的水リテラシーを橋渡しする試みです。同時に、最先端の水動態研究で培われたモデル思考を教育現場へと翻訳することで、研究と教育の間にある距離を縮めることを目指しています。
東京大学生産技術研究所を拠点として、全球陸域水動態研究の国際的ハブ形成に取り組んでいます。博士課程学生やポスドク研究員の育成に力を注ぐとともに、海外からの留学生・インターン・サバティカル研究者を積極的に受け入れ、多様なバックグラウンドを持つ研究者が協働する研究環境を構築しています。
また、CaMa-Flood International Developer/User Meeting をはじめとする国際ワークショップの主催や、国際学会セッションの継続的な企画を通じて、全球河川モデリング分野の研究コミュニティ形成を主導しています。研究・教育・コミュニティ形成を一体として推進することで、全球水文学の国際的研究基盤の強化と次世代研究者の育成を目指しています。
東京大学生産技術研究所(駒場リサーチキャンパス)を拠点として、
グローバル水文学および全球陸域水動態学の研究を推進し、
国際的研究拠点の形成と次世代研究者の育成に取り組んでいます。
水文学を専門軸としながら、工学・社会基盤学にとどまらず、地球科学、地理学、気候科学など
多様な学問分野の研究環境で経験を積み、分野横断的な視点を培いました。
東京大学 社会基盤学専攻において、水文学および気候変動に関する
最先端の学術研究に取り組むとともに、科学的知見をいかに社会へ還元し、
実社会と対話しながら活用していくかという視点を培いました。
Advancing global river hydrodynamics simulations by catchment-based macro-scale floodplain modeling approach
Dai Yamazaki
Geoscience Letters, 12, 72, 2025
https://doi.org/10.1186/s40562-025-00452-z
全球河川水動態モデルCaMa-Floodの15年の開発と応用の歴史をまとめたレビュー論文。
MERIT Hydro: A high-resolution global hydrography map based on latest topography datasets
Yamazaki, D., D. Ikeshima, J. Sosa, P.D. Bates, G.H. Allen, T.M. Pavelsky
Water Resources Research, 55, 5053–5073, 2019
https://doi.org/10.1029/2019WR024873
最新の全球地形データを統合し、水文学的整合性を備えた高解像度全球河川地形データセットMERIT Hydroを構築。
A high-accuracy map of global terrain elevations
Yamazaki, D., D. Ikeshima, R. Tawatari, T. Yamaguchi, F. O’Loughlin, J.C. Neal, C.C. Sampson, S. Kanae, P.D. Bates
Geophysical Research Letters, 44, 5844–5853, 2017
https://doi.org/10.1029/2017GL072874
多様な衛星標高データを統合し、誤差を大幅に低減した全球高精度標高モデル(MERIT DEM)を提案。
A physically-based description of floodplain inundation dynamics in a global river routing model
Yamazaki, D., S. Kanae, H. Kim, T. Oki
Water Resources Research, 47, W04501, 2011
https://doi.org/10.1029/2010WR009726
全球河川モデルに物理的氾濫原過程を導入し、水位と浸水域を同時に再現可能とした基礎的研究。
全球陸域水動態および大規模河川モデリング分野において、国際研究コミュニティの形成と発展に積極的に関与し、研究集会の主催や学会運営を通じて分野横断的な議論の場を構築しています。
全球陸域水動態モデリングおよび衛星観測と数値モデルの統合に関する先駆的研究に対して、国際学会賞、文部科学大臣表彰、JSPS育志賞などを多数受賞しています。
2020 AOGS Kamide Distinguished-Lecture Award
Recent advances in global-scale surface water hydrodynamics modelling
Asia Oceania Geoscience Union(2020年7月)
2020 井上リサーチアウォード
研究テーマ「衛星観測と数値モデルの統合による地球規模での地表水動態の解明」
井上科学振興財団(2020年2月)
平成31年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞
研究テーマ「地球規模での地表水動態の研究」
文部科学省(2019年4月)
2014 GEWEX conference, Early Career Scientist Presentation Award
Global Hydrodynamic Modelling of Large-scale Flooding in Continental Rivers
WCRP/GEWEX 7th International Scientific Conference on Global Water and Energy Cycle(2014年7月)
2012年 工学系研究科 工学系研究科長賞(研究)
博士論文題目「世界の大陸河川における大規模氾濫の物理モデル化に関する研究」
東京大学大学院 工学系研究科(2012年3月)
2012年 第2回 日本学術振興会 育志賞
博士過程での優秀な研究に対して / 「世界の大陸河川における大規模洪水の物理モデル化」
日本学術振興会(2012年1月)
2009年 社会基盤学専攻 古市賞(最優秀修士論文)
修士論文題目「河道から氾濫原への洪水を考慮した全球河川流下モデルの開発」
東京大学大学院 工学系研究科 社会基盤学専攻(2009年3月)
2009年 工学系研究科 工学系研究科長賞(研究)
修士論文題目「河道から氾濫原への洪水を考慮した全球河川流下モデルの開発」
東京大学大学院 工学系研究科(2009年3月)
指導する学生およびポスドク研究員も、大学・学会等において多数の研究表彰を受けており、研究室として継続的に高い評価を得ています。
研究代表者/研究分担者として継続的に研究資金を獲得し、
博士課程学生・ポスドクを中心とする約20名規模の研究グループを主宰しています。
2024-2025 鹿島学術振興財団 国際共同研究助成
グローバル河川モデルと地球システムモデルの結合による気象・気候予測の高度化
2022-2027 学術変革領域A マクロ沿岸海洋学 (計画研究)
大量出水イベントの海洋循環への影響解明
2021-2025 NEDO 官民による若手研究者発掘支援事業(共同研究フェーズ)
気候モデル出力と地理情報ビッグデータを活用した広域洪水リスク情報創出
2020-2024 日本学術振興会 科研費(基盤B)
衛星地表水観測を活用した地球規模での河川水動態シミュレーションの高度化
2020-2021 ECMWF 欧州中期予報センター
ECMWF気象予測システムへの統合に向けたCaMa-Floodのリファクタリング
2016-2020 日本学術振興会 科研費(若手A)
全球河川モデルと衛星高度計を用いた水面下の河道深さ推計
2014-2016 日本学術振興会 科研費(研究活動スタート支援)
全球河道幅・河道深さデータベースの構築による大規模洪水の予測精度の向上
2012-2014 日本学術振興会 海外特別研究員
地表水の衛星観測を活用した全球河川氾濫原モデルによる大規模洪水の予測精度の改善
英国ブリストル大学に2年間の派遣
2010 優秀若手研究者海外派遣事業
NASA/CNESの新規衛星ミッションSWOTとの共同研究 with Prof. Doug Alsdorf
米国オハイオ州立大学に6ヶ月間の派遣
2009-2012 日本学術振興会 特別研究員(DC1)
陸水貯留を適切に表現する陸面水文モデルの構築